行列についてあれこれメモ/行列は何の役に立つか

象の練り物

天下祭り

 またまた象のパレードですが、こちらは作り物の象です。江戸時代、徳川吉宗の命でやってきて、長崎から江戸までの長距離パレードをやり遂げた「享保の象」により、江戸や京都では象ブーム(※1)がおきました。この象ブームがどのくらい続いたか明らかではありませんが、象という珍しい動物が出版物などで広く知られるようになり、大きな祭礼(神社のお祭り)の練物(ねりもの)として登場したと考えらます。


 練物というのは、仮装したり、面白い作り物で練り歩く行列のことです。練物の様子は、当時の祭礼の様子を描いた絵巻や本などに残されていますが、現代のパレードにも負けないくらいのアイデアやデザインに驚くばかりです。その中でも象の練物は、現代のパレードに出ても全く不思議ではない魅力にあふれています。


 象の練物が描かれた祭礼の記録には、いくつかありますが、最も分かりやすく楽しめるのは、天下祭りの象でしょう。天下祭りというのは、日枝神社の山王祭りと神田神社の神田祭りをひっくるめた祭りの総称で、江戸城への入城も許され、将軍も見ていたという幕府公認の大きな祭りです。祭りが大規模なため、予算も半端ではなく、天保元年(1681)からそれぞれ隔年で交互に実施するようになり、2つの祭礼を合わせて天下祭りと呼ばれるようになりました。


『東都歳時記』 斉藤月岑編 長谷川雪旦 絵 1828 画像は『江戸風俗 東都歳時記を読む』 川田壽  東京堂出版 1992より

この天下祭りに登場した象の練物の絵が、天保9年(1838)に刊行された『東都歳時記』(齋藤月岑)著)という歳時記に書かれています。これは、麹町の出し物で、「祭にもけだものを出す糀丁」という川柳もあります。象の足元を見ると、それぞれに人の足が覗いているので作り物というのが分かると思いますが、かなり大きな象です。牙もアフリカ象みたいに長いですが、耳はアジア象ですね。背中には美しい胴懸が掛けられるなど手も込んでいます。(※2)どんな方法でつくったのでしょう。今であれば、空気をふくらませたり、送風型の大きなバルーン(※3)や発泡スチロールでつくったりという方法になると思いますが、実際にそうした方法で現代のパレードにも登場するくらいですから、今も昔も象はパレードの出し物にうってつけなんですね。


 それから、行列している人達の格好を一見すると、外国人風です。これは、朝鮮通信使をモチーフした仮装行列なんですね。朝鮮通信使とは、将軍の代替わりや世継ぎの誕生の際、朝鮮(李氏朝鮮)から日本へやってくる使節団で、この行列も大人気でした。天明5年に描かれた絵巻にも、「朝鮮人来朝の練物」が登場しているので、仮装行列の定番だったかもしれません。朝鮮通信使の行列を描いた羽川藤永の「朝鮮人来朝図」という肉質画や、それを元にした木版画が残れていますが、これも天下祭りのシーンを描いているのではないかと思われています。


 こうして江戸の人達は見る側も見せる側もパレードを楽しんでいたのですが、今も変わらず象のパレードはどこかに魅力があるんですね。

(※1)京都や江戸では象に関する本や絵が出版され、「象ブーム」がおきました。『象志』や『象のみつぎ』『馴象俗談』『霊象貢珍記』など、象について書かれた本のほか、絵入りの瓦版、玩具、双六などが出回りました。


天下祭りの象のカラー版
天下祭り(山王祭)の行列での象の練り物
『千代田之御表』 川越市立博物館蔵
画像は『朝日百科 日本の歴史別冊』 歴史を読みなおす 行列と見世物 朝日新聞社 1994 



『崎陽諏方明神祭祀図』の1部 大阪府立中之島中央図書館蔵
画像は 図録 『祭礼・山車・風流 近世都市祭礼の文化史』 四日市市立博物館 より
『崎陽諏方明神祭祀図』という江戸時代の長崎くんちの様子を描いた本の1部で、その中にも象が登場しています。恐らくハリボテです。

(※3)現代版象の作り物
バボット社の象のバボット。パラシュートに似た皮膜の中に空を充填させて使います。バボットは、バルーンと異なり、その一部を動かすことができる特徴があります。
バボットについてはこちらから


下の写真/2人が入って動く象の着ぐるみ(造形工房・伝作)



【参考資料】
●『江戸風俗 東都歳時記を読む』 川田壽  東京堂出版 1992より
●『朝日百科 日本の歴史別冊』 歴史を読みなおす 行列と見世物 朝日新聞社 1994 
●『大江戸の天下祭り』 美作陽一 河出書房新社 1996

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